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▼ 元帥の危急編2

「アレン。おいアレン起きろー汽車が来たぞー」

汽車を待っている間に居眠りをして、うなされているアレンくんの顔にラビが落書きをしている。え、やだ。ラビの前で居眠りしたらこんなことされるの。人間性を疑う行動にドン引いた目でラビを見る。寝言で師匠、と言っているあたり、またクロス元帥の夢を見ているのだろう。そんなに嫌なんだなあ。わたしも過去に教団で数度しか会ったことないけれど、破天荒な噂は耳に届いていた。

* * *

AKUMAの襲撃を受け、この歳になって恥ずかしいほどにぼろぼろ泣いてしまった後、病院に残してきたリナリーたちのところにもAKUMAが差し向けられているかもしれない、と急いで戻ることになった。まだどこかにAKUMAが残っているかもしれない中、ひとりで歩いて戻るかラビのイノセンスでの大雑把な移動をさせられるか究極の選択に頭を悩ませているうちにがし、とにっこにこ笑顔のラビに無理やりイノセンスを握らされる。大雑把過ぎてうっかり死ぬかもしれない、と思ったものの、アレンくんがわたしが怪我をしないように庇ってくれたのでわたしは軽傷で済んだ。いや、だからアレンくんの方がボロボロなのに何やってるの。ありがたいけれど。わたしだけなら死んでた自信がある。ラビはもう少し繊細さを持ってほしい。病院の壁を壊して着地する際、アレンくんとわたしがブックマンの上に落ちたことで怒り心頭のブックマンに、やはり襲撃を受けていた病院から馬車での移動中わたしとアレンくんとラビは正座させられる。なんでわたしまで。病院の3人も無事だったし、リナリーも目を覚ましていた。それは大変喜ばしいのだが。日本人だからまだ他のふたりよりも正座になれているものの、揺れる馬車の中でというのはなかなかにつらい。

「なまえ、大丈夫?」

「リ、リナリー…目が覚めてよかった……」

苦笑するリナリーと苦しむわたしたち、そして怒るブックマンをよそに、コムイさんが任務について説明を始める。わたしはコムイさんと一緒にここまで来たから軽い説明は受けていたため、目を伏せて話を聞く。イエーガー元帥が亡くなったこと、ノアの一族のこと、そしてすべてのイノセンスの核となるハートと呼ばれるイノセンスのこと。わたしのイノセンスがうっかりハートだったりしたら世界は終わりだろうな、なんて他人事のように考える。だってわたしは世界よりも自分が大事だもの。世界中のエクソシストがそれぞれ残る4人の元帥の護衛のためにチームを組んで捜索に当たることになり、わたしたちの担当はアレンくんの師匠であるクロス・マリアン元帥、その人である。

* * *

任務を言い渡されてすぐ教団に帰ってしまったコムイさんをよそに、一気に顔色が悪くなったアレンくんはそれから、眠るたびにうなされるようになった。リナリーに急かされて急いで汽車に乗り込み、アレンくんの顔を見て、つい笑ってしまう。

「ふ、ふふ…」

「え?なんで笑うんですか?」

自分の顔の惨状をわかっていtないアレンくんが不思議そうにわたしを覗き込んでくるから、笑いながらやめて、と両手でアレンくんを押して顔を背ける。

「ア、アレン、くん、顔洗ってきた方がいいよ」

震える声でなんとかそう伝えると、よだれのあととかついてます?と首を傾げるだけで、見かねたリナリーが自分の荷物から手鏡を取り出した。さすがの女子力。その鏡を覗き込んで、アレンくんが固まり、勢いよく立ちあがってトイレに駆けこんでいく。続いてリナリーも、ちょっと歩いてくるね、と席を外した。

「笑いすぎだろ〜アレンかわいそ〜」

「だ、誰のせいで!」

にやにやと底意地の悪い笑みを浮かべるラビについ反論すると、ブックマンがラビの頭をスパーン、と叩いた。この光景さっきも見たな。リナリーと顔が綺麗になったアレンくんが戻ってきて、ブックマン主導のもと、今後の方針を決めていく。

「なんだもう取っちゃったのかよ。面白い顔だったのに」

「ホントやめてください」

「なまえもめっちゃ笑ってたじゃん」

「笑ってない…笑ってないから…」

小声でこそこそと話すふたりに巻き込まれ、アレンくんからもじとー、という目で見られてしまう。ごめんね、と両手を合わせてアイコンタクトしたらアレンくんは軽くため息をついて苦笑した。しゃべるなそこ、とブックマンに咎められ、話が戻る。アレンくんのゴーレム、ティムキャンピーはもともとクロス元帥のものだったらしく、ティムにはクロス元帥の居場所がわかるらしい。コムイさんと別れたドイツからひたすら東に向かっているが、ティムは未だ東の方角を見続けている。距離が離れ過ぎると漠然とした方向しかわからないらしいから、クロス元帥はまだ全然遠くにいるということなのだろう。

「一体どこまで行ってるのかなぁ。クロス元帥って経費を教団でおとさないから領収書も残らないのよね」

「へ?じゃあ生活費とかどうしてんの?自腹?」

「主に借金です」

ズバっと言いのけたアレンくんに目が点になる。借金って…。経費で落として教団に居場所を知られるのが嫌なのはわかるけれど、借金を重ねてたらAKUMAだけでなく人間にも追われることになるのでは。そんな生活わたしは嫌だ。

「ホントにお金が無い時は僕がギャンブルで稼いでました」

さらに出てくる衝撃発言にその場の全員がおまえそんなことしてたんだ…。とアレンくんを見つめる。え?何?何?とわかっていない様子のアレンくんは、リナリーと目が合ったかと思うと、思い切り顔を背けられてショックを受けていた。リナリーが目を覚ましてからリナリーがアレンくんを避けているように見えるけれど、何かあったのだろうか。アレンくんのまだ開かない左目についてブックマンが話し始めると、リナリーの機嫌が余計悪くなっているように見えた。昔から一緒にいるけれど、あまりこういう怒り方をする子じゃないだけに、少し心配だった。途中の駅で食料調達のために停車してる間に買い出しに出たリナリーを探しに汽車を降りると、ちょうどリナリーとアレンくんが話しているところだった。少し様子を窺っていると、泣きだしたリナリーに慌てて駆けだそうとして、止まる。何度かわたしが泣いている時にアレンくんが慰めてくれたけれど、今、同じようにリナリーを慰めている。アレンくんにとって、わたしが特別なわけではない。わかりきったことなのに、胸がもやもやとする。

「何度だって助けてやるんだから!」

大きな声でそう宣言してアレンくんの横を駆け抜け、汽車に戻ったリナリーが、わたしには酷く眩しい。アレンくんを助けてあげることが、わたしにはどれだけできるだろうか。そして、わたしは自分よりもアレンくんを助けることを優先することはきっとできないだろう。プルルルルル、と鳴り響いた発車のベルに、はっとする。早く乗らなければ。これを乗り過ごしたら確か明日まで汽車がないはずだ。同じようにアレンくんも汽車に乗り込もうとすると、知らないおじさんに腕を力強く掴まれ、阻まれていた。

「あなたの胸にあるそれは、十字架ですか」

「ア、アレンくん!」

さっきリナリーが言っていた助けるとはきっと意味も違うけれどわたしもアレンくんを助けなければ、と駆け寄ると、わたしが着ているコートのローズクロスを見て、もうひとりいいいい!とアレンくんもろともガッチリ拘束されてしまう。

「ちょ、彼女に乱暴しないでください!」

「わたしたちこの汽車に乗らなきゃいけないんです!」

ふたりがかりで拘束を解こうとするものの、どこにそんな力があるのか全く振りほどけない。そうこうしてる間に汽車が発車してしまい、わたしとアレンくんは、他の3人に置いていかれてしまったのだった。

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